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エルメスのイメージカラーが
オレンジになったのは偶然?

エルメスはフランス生まれの歴史あるブランドです。
2037年には200周年を迎える伝統を持っております。
エルメスのイメージカラーのオレンジは、実は偶然の産物から誕生しました。
エルメスが歩んできた激動の時代を背景にしてブランドの展開期はいくつもあり、イメージカラーが決まったことも歴史に関連しております。
今回はイメージカラーであるオレンジに焦点を当てて説明していきます。

エルメス・オレンジの採用

エルメスのイメージカラーは強いオレンジです。そこに馬車とイニシャルのHのロゴを刻印すれば、エルメスの意匠は完成します。シンプルであり奥ゆかしく、一目でエルメスを連想させてくれる見事な組み合わせです。

フレッシュな南国の果物のようなオレンジは『エルメス・オレンジ』と呼ばれており、エルメスのプライドと品格を表現する色になります。ロゴの刻印には発祥の地であるPARISの文字が踊り、初代である創業者のティエリー・エルメスの功績を讃えています。この色はある歴史を背景に生まれた、偶然の産物であると現代に伝えられています。

現在から約70年前、二つの大戦の戦禍が残るヨーロッパは資材の提供が不安定な時代でした。馬車の時代から自動車の時代に見事に方向転換したエルメスでしたが、この大きな戦争の影響は回避出来ませんでした。生活必需品や軍需産業に原料は優先的に使われてしまい、エルメスも例外に漏れず原皮の調達が困難になることがありました。それまで使っていたベージュ色の包装紙が手に入らなくなったのもこの時期です。

本店の営業は続けておりましたが、お客様が購入した時のパッケージがありません。それまで使っていたゴールドの装飾をしたボックスや、象牙色のボックスやベージュの包装紙はもはや手に入りませんでした。あれこれと手を尽くしてやっとの思いで入手出来たのが、あの特徴的なオレンジ色に染められた包装紙だけだったのです。なのでそれまでイメージカラーだったベージュの包装紙や白いボックスの代わりに、苦肉の策としてオレンジの包装紙を使ってお客様に納品を行いました。
ヨーロッパを覆っていた戦争という暗雲が消えて平和の光明が舞い降りたのは1945年です。それから間もなく資材調達は徐々に平常に戻り、白いボックスやベージュの包装紙を使えるようになりました。ところがお客様たちは異口同音にオレンジ色の方が好みだと訴えたのです。

こうした偶然を経てオレンジカラーが使われるようになり、正式にオレンジをイメージカラーに採用したのは1960年代のことになります。当時の社長のジャン・ルイ・デュマと、現社長の大叔父に当たるパトリック・ゲラン、従弟のベルトラン・ピュエックが最終決定の判子を押しました。以後エルメスのイメージとこの独特のオレンジは力強く結びついてゆき、現在ではエルメス・オレンジと呼ばれているのです。

その頃でも100年の長い伝統を持っていたエルメスが、オレンジをイメージカラーとして採用したことはお客様の声に押されたからに他なりません。こうしたハプニングがなければ、白いボックスとベージュの包装紙が現在でも使われていたのです。

希望の色エルメス・オレンジ

太陽の輝く色のようなカラーを纏ったエルメス・オレンジは、戦争が終わったばかりの人々の目には希望に満ちて見えました。輝かしいオレンジは明日への希望に他なりません。心地よく暖かい暖色は凍てついた心を溶かしてくれるカラーです。

1960年代に突入するとパリにさまざまな色が戻ってきます。その中でオレンジ・ボックスを抱えたパリジェンヌたちの姿が目立つようになりました。オレンジの箱には特徴的な馬車のロゴマークとエルメスの文字、その下にはPARISという文字が躍っていたのは言うまでもありません。この光景を眺めた人が口にしたのが「エルメス・オレンジ」という言葉でした。

人間の心理は色に強い影響を受けると言われております。青を見ると海や空を心の心象風景に思い浮かべ落ち着いた気分になりますし、赤い色は炎の色を連想させて高揚感を覚えるのです。黒は夜の訪れや夜空を思い浮かべ、オレンジ色は地平線から浮かぶ太陽とこれから始まる一日のスタートを連想させます。オレンジ色は希望の色なのです。

エルメスは多彩な
カラー展開が魅力

エルメス・オレンジの前に使われていたベージュ色は現代でも使われています。製品の台座になっていたり、付属品の一部に使われているケースが多いです。近年ではエトゥープというカラーで、ベージュとグレーをミックスさせて若干の金色が混ざるグレージュカラーを、定番のケリーやバーキンの配色に設定して提供しています。何にでも合わせやすい中間カラーとして人気であり、TPOを問わずにファッションの中に組み込めると大変評判になっているカラーリングです。エルメスにはさまざまなカラーストーリーがあり、それぞれに特徴と魅力が詰め込まれております。

エルメスのカラー展開の豊富さは数あるブランドの中でもトップを争います。原皮を鞣すタンナーと共同して、新色を開発するほど色には強いこだわりを持っているのです。世界最高峰の素材を使い、その中でも最も優れた部位のみを利用して作られるバッグは垂涎の逸品になります。優れた職人が20時間以上の仕事をすることで完成する皮革を使った芸術品に他なりません。

エルメスの通常ラインナップには200種類以上のカラーが使われており、オレンジだけを限定してもその数は10色以上あると言われております。オレンジ色と言えばビタミンカラーとも呼ばれており、実際に果物から名付けられている名称も少なくありません。

マンゴーは口にした時の芳醇な味わいと濃厚でとろけるような舌触りが特徴で、その中には微かな渋みを含んでいる南国の食べ物です。スイートでファンタジックな味わいは、甘いイメージを与えてくれる優美なイメージに満ち溢れています。このカラーも数あるエルメスのオレンジの一つです。

フーカラーはフランス語で火という意味になります。暖炉の中で炎が小さく揺れる優雅さや、オレンジ色から立ち上る煙と炎を連想させるビターテイストなフレーバーが香るカラーです。華麗さと鮮やかさを持ち、気体の軽やかな印象を表現する火の精霊の化身的な色合いになります。

オレンジポピーは強いインパクトが特徴で、燃えるような花びらを連想させる色です。まるで色鮮やかなキャンディーにも見えますし、西の空に沈む夕日のような情景も含んでおります。ゆっくりとリズム良く風に吹かれて揺れる花のような、落ち着いており可愛げのあるオレンジです。

カプシーヌはフランス語で金蓮花という意味合いであり、花言葉は『勝利』や『困難に打ち勝つ』といった縁起の良い前向きな花になります。元気いっぱいで勢いのあるカラーなので、ワンポイントの差し色にも最適です。アイキャッチや力強さを表現するには、カプシーヌのような躍動感のあるオレンジを加えてみることがおすすめになります。

エルメスのイメージカラー
であるオレンジの種類

エルメスのオレンジはブランドを代表するアイコンであり、馬車やイニシャルのHと共にブランドを表すキーワードになります。正式にイメージカラーに採用されたのは1960年代のことですが、エルメスで使われ始めたのは1940年代頃だったと伝えられています。

力強く躍動感にあふれたオレンジは、カラーチャートで暖色系と呼ばれており、人間にとっては気持ちを高揚させたり癒しを与える生活になくてはならない色になります。実際に必須栄養素であるビタミンCを豊富に含んでいるので、深層心理の中で求めている色なのかもしれません。

ここで、エルメスのオレンジのカラーをいくつか紹介します。

「テールバテュー」は表面を赤土で覆ったテニスコートの表情のことを言います。踏み固められたテニスコートの土は、テニスをプレーしやすいようにこうして赤土が使われるケースが少なくありません。全仏オープンが行われるスタッド・ローラン・ギャロス競技場は、見事なテールバテュー色になっております。品格と伝統とフェアプレーを感じさせる色であり、勝負事を連想させるカラーです。オレンジの中ではブラウンに近く、穏やかで落ち着いた印象も持っております。

「サンギーヌ」はフランス語で赤褐色の意味があり、カラーチャート的には赤寄りのオレンジになります。強い自信や楽観を表現しており、砂漠に沈む夕焼けに照らされた砂丘のような幻想的な情景を持っています。孤高の冒険心と揺るがない強い意志を内在した強いオレンジになります。

「ポティロン」は軽快でポップなフルーツカラーです。手にしているだけで明るい気分になるような、ダンスを踊りたくなるような陽気さを持ったオレンジになります。毎日を笑顔で過ごし、運動の後に冷たいフルーツジュースを飲むような爽やかな気分を大切にしたい人には、このカラーは最適です。フランス語ではカボチャという意味であり、数多くあるエルメス・オレンジの一つでもあります。

「オレンジ」はエルメスが定義する最もシンプルで中道なオレンジカラーで、ニュートラルな雰囲気は万人に受けること間違いありません。甘すぎずに渋くもなく最適なバランス感覚の良さが魅力です。元気を持っていながら、自立した強さと温和な優しさが共存するカラーになります。

「パンデピス」はエルメスが設定する多彩なオレンジの中の一つで、ミステリアスな雰囲気を醸し出す独特のカラーです。フランス語でジンジャーブレッドのことを呼び、古代にアラブ世界からヨーロッパに伝来しました。異国情緒が漂う色合いだと表現されます。
パンデピスは古びたレンガや教会の石畳や、レンガ造りの屋根を連想させるスパイシーなオレンジになります。心地よい緊張感が漂い、しかし好奇心に負けて手を出してしまうような魅力的で不思議な色です。エルメスはこの色をレザーチャームや、クロコダイル素材のバッグの色展開に設定しております。

「ムタード」はフランス語で辛子という意味であり、オレンジの中ではイエローよりのカラーです。英語のマスタードは実はフランスのムタードが語源という説があり、食文化はダイレクトに異文化を橋渡しする鍵である好例になります。エルメスのムタード・オレンジはシャープでライトなオレンジカラーです。

「アプリコット」は果物のアンズを連想させるカラーであり、エルメスはこの特徴的で可愛らしいオレンジを2018年から自社のワードローブに加えました。アプリコットは果肉が甘みを帯びて発酵した香りを持ち、梅やスモモの近似種とされております。美しい花を咲かせるのはバラ科に属しているためであり、未成熟の果実は緑色をしているのが特徴です。熟成してくるに連れて黄色から赤に変色し、その色合いは美しいグラデーションになります。フランスでは17世紀から栽培がされており、食後のフルーツとして馴染みのある果物です。

オレンジと言ってもこれだけカラーが細分化されており、イエローに近いオレンジから赤みを持つオレンジまでさまざまなバリエーションがあります。エルメスはタンナーと共同でこうしたカラーを作り、製品作りの幅を広げているのです。多彩で繊細なエルメスのイメージは、こうした錬金術ならぬ色の調合によって支えられております。

エルメス・オレンジはブランドのイメージカラーとしてバーキンやケリーを初めとする多くのバッグに採用されており、根強い人気を誇ります。

まとめ

今回はエルメスの特徴と強みであるカラー展開について、特にオレンジカラーに焦点を当てて説明してきました。オレンジだけでも実に十色以上の展開があり、微かな違いから大きな違いまで実に多彩なオレンジを表現していることが見て取れます。エルメス・オレンジの経緯を含めて、エルメスにとっても顧客にとってもオレンジは特別な色になります。購入したエルメスを包んでくれるのは、いつだってこの特徴的なオレンジです。

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