機械式時計のムーブメントは、大きく分けて汎用ムーブメントと自社開発ムーブメントの2種類があります。搭載しているムーブメントによって時計の性能や特徴は異なるため、ムーブメントへの理解を深めることで、理想の時計を見つけやすくなるでしょう。
この記事では、汎用ムーブメントである「エボーシュ」と自社開発ムーブメントとの違いや、ETA社のエボーシュについて解説します。
さらに、自社開発ムーブメントを採用しているブランドのなかから、ロレックスのムーブメントを紹介します。
ロレックスは、自社開発ムーブメントを採用していることで有名なブランドです。ロレックスのムーブメントは精度や耐久性に優れており、世界最高峰のムーブメントとして知られています。
Contents
ETA社は老舗の
ムーブメント開発メーカー
ムーブメントとは、時計の駆動をつかさどる内部機械のことです。車で例えるならエンジン部分にあたり、搭載しているムーブメントによって性能や特徴に違いが出ます。
ムーブメントを製造している大手メーカーとしては、スイスのETA社が挙げられます。ETA社は、ムーブメントメーカーの業界最大手です。
ETA(エタ・エス・アー・マニュファクチュール・オルロジェール・スイス)社は、1856年に創業したムーブメントメーカーです。創業当時はエテルナの子会社でしたが、1932年には独立しました。
時計のムーブメントは、巻き上げるぜんまいの動力によって時計を動かす「機械式」、水晶に電圧をかけて時計を動かす「クォーツ式」の2つに大きく分けられます。ETA社では、このどちらも製造しています。
1990年代、ETA社のムーブメントは、業界の90%を占めるといわれるほどの人気でした。近年、自社開発のムーブメントで製作するメーカーは増えていますが、ETA社の汎用ムーブメントを採用するメーカーも、依然として多く存在します。
ETA社の3つの
代表的なムーブメント
ETA社は、1860年に創業したスイスの時計部品メーカーです。世界最大のムーブメントメーカーとして、高品質なムーブメントを数多く製造しています。
ETA社の代表的なムーブメント3つは、以下のとおりです。
ETA2824系
ETA2824系は、ETA社の標準グレードとなる自動巻きムーブメントです。日付表示や自動巻きといった機能が搭載されており、ぜんまいを巻き上げる馬力や時間調整の精度、どちらにも優れています。
チューダーやハミルトン、ロンジンなどさまざまなメーカーで採用されています。
ETA2892系
ETA2892系は、ETA社の上位グレードとなるムーブメントです。
ぜんまいを巻き上げる馬力や時間調整の精度に優れているだけでなく、ムーブメントの厚みが薄いという特徴があります。それによりさまざまな時計に採用しやすく、大手メーカーからも支持を集めています。
採用しているのは、オメガやカルティエ、シャネルなどの一流ブランドです。
ETA7750系
ETA7750系は、クロノグラフを搭載したムーブメントです。片巻きタイプであるため、効率良くぜんまいを巻くことができます。
また、クロノグラフ機能により、通常の時計機能に加え、ストップウォッチとして使用することもできます。運動をする方や、時間を計測する機会が多い方に適したムーブメントといえるでしょう。
ただし、ムーブメントが厚くなるため、時計のデザインによっては搭載できない場合もあります。
ETA7750系は、ブライトリングやIWC、オメガ、タグホイヤーなど、多くの高級ブランドに採用されています。
汎用ムーブメントと
自社開発ムーブメントの違い
ここでは、汎用ムーブメントと自社開発ムーブメント、それぞれの特徴について解説します。
汎用ムーブメントとは
汎用ムーブメントとは、どのメーカーの時計にも使用できるムーブメントのことです。
「エボーシュ」と呼ばれる半完成品状態で販売されており、メーカーごとに独自のカスタマイズを施して使用します。そのため、同じ汎用ムーブメントを採用しても、メーカーによって仕上がりは異なるのが特徴です。
ETA社以外に、セリタ社も高品位なムーブメントを製造しており、多くの高級時計ブランドに採用されています。
汎用ムーブメントは多くのメーカーで使用されているため、パーツの供給が途絶える可能性は低いでしょう。各メーカーが修理に対応できる体制を整えており、長期間にわたって時計を愛用できます。
また、汎用ムーブメントは半完成品状態で販売されるため、自社開発ムーブメントに比べて製造コストを抑えられるのがメリットです。
品質の点では、自社開発のムーブメントと比べて劣るように思われがちです。しかし、一流ブランドといわれるメーカーも、ETA社などの汎用ムーブメントを採用しており、十分に高品質なものもあります。
汎用ムーブメントと自社開発ムーブメントには、それぞれにメリットとデメリットがあります。そのため、どちらが良いか迷ってしまう場合は、それぞれの魅力を店頭で確認して、自分に合ったものを選ぶとよいでしょう。
自社開発ムーブメントとは
自社開発ムーブメントとは、呼び名のとおり、自社で開発したムーブメントのことです。外部サプライヤーのパーツを使用する場合もありますが、基本的な設計や製造などは自社で行なっているのが特徴です。
汎用ムーブメントはすでに設計や製造が完了しているので、細かな注文はできません。
しかし、自社開発であれば、ぜんまいを巻くための馬力、時間調整の精度、ムーブメントの厚み、耐久性、メンテナンスのしやすさなどにメーカー独自のこだわりを詰め込み、オリジナリティのあるムーブメントを製造できます。
汎用ムーブメントと自社開発ムーブメントはどちらがおすすめ?
汎用ムーブメントと自社開発ムーブメントには、それぞれの魅力があります。そのため、自身の好みやライフスタイルに適したものを選ぶのがおすすめです。
例えば、ブランドに対するこだわりや好みがある場合は自社開発ムーブメント、費用を抑えたいなら汎用ムーブメントといった選び方もあります。
有名ブランドはムーブメントを
自社開発していることが多い
近年では、汎用ムーブメントを使用していた有名ブランドも、自社開発ムーブメントの採用に力をいれています。
汎用ムーブメントは複数のブランドで使用されるため、コストを抑えつつ高品質なムーブメントを入手できるのがメリットです。しかし、汎用ムーブメントでブランドの個性を表現するには限界があります。
一方、自社開発ムーブメントにはブランド独自の技術やデザインを盛り込めるため、ブランドの個性を表現するのに最適です。また、汎用ムーブメントよりも高精度や高機能なムーブメントの開発も可能です。
ムーブメントの開発から組み立てまでを、一貫して自社で行なうブランドを「完全マニュファクチュール」と呼びます。完全マニュファクチュールとして挙げられるのは、ロレックスやパテックフィリップなど、一部の有名ブランドのみです。
自社開発ムーブメントの追い風となった2010年問題
ETA社は、コストパフォーマンスの高いムーブメントを多くの時計会社に納入していました。スイス製機械式時計におけるシェアは、多いときで約90%に到達していたようです。
そのため、ETA社のムーブメントを採用した時計は、価格を抑えて販売することができました。
しかし、ETA社のムーブメントを採用した時計会社のなかには、販売価格を上げて大きな利益を得ているところも少なくありませんでした。同じグループ会社のスウォッチグループは、この状況を好ましく思っていなかったと考えられます。
そこで、スウォッチグループはETA社に対して、グループ外へのムーブメント供給を段階的に縮小するように要求しました。これは、グループ外の時計メーカーがETA社のムーブメントを低価格で採用し、販売価格を上げて利益を得ることを防ぐためです。
この結果、グループ外の時計メーカーは、自社開発する、完成状態で仕入れたムーブメントを分解して自社オリジナルにカスタムするなど、ムーブメントの調達方法を検討する必要に迫られました。
ロレックスの
自社開発ムーブメントの魅力
創業当初のロレックスには、汎用ムーブメントを使用していたモデルもありました。しかし、1930年代以降は、自社開発のムーブメントを採用するようになります。
現行モデルは、すべて自社開発のムーブメントを採用しています。そのため、ETA社のムーブメントを使用していたモデルは、中古でしか見つけられません。
ここでは、一流時計ブランドが開発した部品の特徴を紹介するにあたって、ロレックスを例に6つの魅力を紹介します。
精度の遅れを調整できるフリースプラング
ロレックスは1960年頃から「フリースプラング」を採用しており、現在ではすべてのモデルに採用されています。
フリースプラングは、ヒゲぜんまいに直接接触せず、テンワという部品のおもりの比重を変えることで時間調整を行なう機構です。
ヒゲぜんまいに直接接触して時間調整を行なう緩急針という機構は、調整の精度が高い反面、ヒゲぜんまいに大きな力がかかるため、部品の摩耗が激しいというデメリットがあります。
一方、フリースプラングはヒゲぜんまいには直接作用しないので、摩耗が少ないというメリットがあります。そのため、長期的に高い精度を保つことができるのです。
故障リスクを下げるツインブリッジ
テンプは左右均等に動くことでぜんまいを動かす、時計の心臓部ともいえる重要な部品です。非常に繊細にできているため、衝撃によって故障する恐れがあります。
シングルブリッジの場合、テンプは片側から1本のネジで固定されている状態です。そのため、衝撃を受けてネジが外れてしまうと、テンプが脱落して故障する可能性があります。
一方、ツインブリッジでは、テンプは両側から2本のネジで固定されており、衝撃を受けてもネジが外れにくく、テンプの脱落や故障のリスクを下げるのに効果的です。
このように、ツインブリッジは、テンプの安定性を保ちつつ故障のリスクを下げるのに有効な技術といえるでしょう。ロレックスは高精度と耐久性を追求するために、ツインブリッジを採用しています。
他メーカーにはない巻き上げヒゲ
ロレックスは、ムーブメントの心臓部でもあるテンプの調速機構に、巻き上げヒゲを採用しています。巻き上げヒゲは、精度が高く耐磁性にも優れるなど、平ヒゲの高級版ともいえる部品です。
一般的には平ヒゲが多く使われていますが、高級時計メーカーの一部では巻き上げヒゲが採用されています。ロレックスは巻き上げヒゲを採用することで、高精度な時計作りを実現しています。
長期使用を可能とするレッドアルマイト処理
リバーシングホイールは、自動巻き式時計のムーブメントにおいて、ローターの回転をぜんまいの巻き上げの力に変える役割を果たす重要な部品です。
そのため、ローターの回転や手巻き時に常に回転することになり、摩耗しやすいという特徴があります。この弱点を補強する方法としてレッドアルマイト処理があります。
レッドアルマイト処理は、アルミニウムに陽極酸化処理を施すことで、表面を硬化させる処理です。この処理によってリバーシングホイールの表面硬度は向上し、摩耗を最小限に抑えられます。
また、レッドアルマイト処理は着色も可能で、ロレックスでは、リバーシングホイールを赤色に着色しています。これにより、摩耗がひどくなったタイミングでの部品交換の目安になるでしょう。
衝撃から時計を守るキフショック
キフショックは、時計の衝撃からテンプを守るための耐震装置です。テンプとは時計の心臓部ともいえる部品で、ぜんまいで時計を動かしています。
テンプは非常に精巧な部品であるため、衝撃を受けると左右均等に動かなくなり、時間がずれてしまう可能性があります。
キフショックの役割は、衝撃を感知した際にテンプの中央軸を支えて左右均等に動くようにして、時間をずれにくくすることです。
部品摩耗を防ぐ人工ルビー
時計のムーブメントは、ぜんまいの力で歯車を動かして正確な時間を表示しています。歯車は常に回転しながら接触するので、摩耗が避けられません。そのため、歯車の接着面に人工ルビーを配置して摩耗を防いでいます。
ロレックスは、ムーブメントの精度を高めるために、汎用に比べて多くの人工ルビーを配置しています。これにより、部品の摩耗を抑えて、ムーブメントの長期維持を実現しています。
自社開発ムーブメントを
搭載したロレックスの
おすすめ時計4選
現行のロレックスモデルは、すべて自社開発のムーブメントを採用しています。モデルの種類も多く、どれを選べばいいか迷っている方も多いでしょう。
ここでは、ロレックスのモデルのなかでも特に人気の高い4つを紹介します。
サブマリーナー デイト
サブマリーナーは、ロレックスのダイバーウォッチシリーズとして有名なモデルです。モデル発表当初は100m潜水用防水仕様だったものの、現行モデルは300mにまで改良されました。
サブマリーナー デイトには、逆回転防止ベゼルやブラックダイアル、オイスタースチールといった特徴があります。逆回転防止ベゼルには60分までの目盛りが付属しているため、潜水時間の計測に使用可能です。
ブラックダイアルは暗いところでも時間や目盛りを確認しやすく、オイスタースチールは腐食しにくいというメリットがあります。
また、文字盤のカラーはグリーン・ブラック・ブルーの3色を展開しているので、好みのカラーを選べるでしょう。
エクスプローラー
エクスプローラーは厳しい環境下でも耐えうる、高い耐久性を備えたモデルです。探検家や冒険家など、過酷な環境へとおもむく人々が実際に身に着け、その性能を証明しています。
また、エクスプローラーには長針・短針・秒針のほか、24時間表示の針も付属しています。これは、昼夜の区別がつきにくい場所での使用を想定して設計されたものです。
エクスプローラーⅡは、通常のエクスプローラーの上位モデルです。ダイアルに24時間表示の目盛りが付属していて、昼夜の区別がよりわかりやすくなっています。
コスモグラフ デイトナ
コスモグラフ デイトナはレーサーのために設計されたクロノグラフ搭載モデルで、美しさと機能性を兼ね備えています。
デイトナに搭載されているクロノグラフ機能には3つのカウンターが付属しており、時間の計測が必要なレースシーンに最適です。
また、デイトナのクロノグラフは最長72時間使用できます。一般的には使う時間が長くなるほど時間の精度が落ちてきますが、デイトナのクロノグラフは長時間の使用に耐えられる性能を持っています。
ホワイトゴールドやイエローゴールド、エバーローズゴールドなどさまざまなカラーを展開しており、好みに合わせて選べるのが魅力です。
GMTマスターⅡ
GMTマスターⅡは、出発地と到着地の2つのタイムゾーンを表示できる時計です。そのため、パイロットや海外出張が多いビジネスマンなどに人気があります。
デザインは、ステンレススティール製のモデルと、ホワイトゴールドやエバーローズゴールドなどの貴金属製のモデルがあります。
目盛りダイアルの上部と下部で、色が分かれているのが特徴です。色を分けることで午前・午後の判断を容易にしています。
また、腐食や傷に強いオイスタースチールを採用しているモデルは、厳しい環境下の使用にも適しています。通常のベルトに比べて劣化しにくく、高級感と美しさを長く維持できるでしょう。
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ロレックス以外にも、自社開発ムーブメントを採用しているブランド時計は多数あります。手持ちの時計の売却を検討しているなら、「おたからや」で査定してみてはいかがでしょうか。
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ブランド時計を高く売るためのポイントは、以下の記事で詳しく紹介しています。売却を検討されている方は、ぜひ参考にしてください。
<関連記事>賢く時計買取を利用するために知っておきたいチェックポイントと3つのコツ
まとめ
ETA社の汎用ムーブメントはエボーシュとも呼ばれ、ムーブメントの基本的な構造や機能を備えた製品です。自社開発ムーブメントに比べて、低コストで量産しやすいのがメリットです。
また、自社開発ほどの幅はありませんが、汎用ムーブメントを自社製品仕様にカスタマイズして、オリジナリティのある時計に仕上げることができます。
有名な一流ブランドで自社開発ムーブメントを採用しているケースは多数あります。ブランド独自の技術やデザインを楽しむなら、自社開発ムーブメントを使用している時計を選ぶのがおすすめです。
「おたからや」では、さまざまな時計を査定しています。付属品がない場合でも査定は可能ですので、まずはお気軽にご相談ください。
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